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秘密の白夜 
ダイジェスト版




麺類が人類を魅了する出来事の真理とは何だろう。
数ある食物の中でも、世界的に、普遍的に普及している食品。
麺をすする時の音と感触は、上顎と下顎をまるで弦楽器のボディのように変え、
その振動は共鳴しあって聴覚と脳神経を心地よく刺激する。柔らかな表面を噛み
砕けばプチプチと爆ぜ、細胞が分裂するかのように口中で活き活きと麺が増殖す
る。命の誕生の光景に似ていて生の喜びが弾けるかのようだ。喉元を通過する時
の滑らかな刺激は人類に類なき安堵を与える。この短い時間の中に人類が無意識
に、潜在的に好む刺激要素が濃縮しているのだろう。
肉や野菜、米には決してない抜群の食べ心地。紀元前には存在しなかった麺とい
う線の食感。そう、塊でもなく点でもなく、柔らかな線が生み出す味覚の世界な
のだ。麺を食する感覚はセックスに類似していると言う者さえいる。
麺の快楽。
かく言う私も、そうした麺の魅力に取り憑かれた者の一人だった。

そのシンプルでいて奥の深い世界に魅せられ、うどん大国・香川のうどん店の全
店制覇を達成した私の元に、ある日一通の封書が届いた。
薄茶色の封筒には所々に白いカビのようなものがこびり付き、裏には何かの紋章
のような刻印が押されていた。円の中に緩やかなカーブの三本線、そして鳥をか
たどったマーク。差出人の名前はない。
無造作に開封すると、古い書籍に積もったホコリのように白い粉が顔面に向けて
舞い、それを吸い込み少し咳き込んだ。どうやらこのレターセットは小麦粉を詰
めていた大袋を再利用し作ってあるようだ。
中にはこのような文章が書かれていた。

宮武竹清様
今回、貴殿の偉業を讃え
当会にて下記の日時にて、祝賀パーティーを開催したい所存です。

12月14日(金)19:30~
同封の地図、明記の場所にて

ご都合よろしければご参加くださいませ。
心よりお待ち申しております。

                讃岐うどん共の会

有名な「讃岐うどん友の会」なら知っているが、「讃岐うどん共の会」とは聞い
たこともない団体だ。
しかも、どうして私の本名や住所まで把握しているのだろう。全店制覇達成に関
しては自分のブログで公表していたが、本名は明かさずハンドルネームで運営し
ていた。不特定多数の人間の中から私個人を特定できる要素は何もない。そうす
ると私の友人や知人の中に、「讃岐うどん共の会」のメンバーがいる可能性が高
くなる。しかし身近な友人ならこんな手の込んだことをするはずがない。知人の
中の数人のうどん好きの顔を思い浮かべたが、ここまで怪しげな行為をとる人物
は見当たらなかった。
一体、誰がこの招待状を送ってきたのだろう。
皆目見当がつかず、私は少しの恐怖すら感じていた。

一カ月が過ぎた指定日当日、私は会社で軽い残業を終わらせた後、高松中心部に
ある繁華街へと足を運んだ。
謎めいた「共の会」への小さな興味と好奇心が私を夜の街へと脚を運ばせた。
冬の匂いがする。もう大陸からの寒さを風が運ぶ季節になっていた。薄手のコート
の襟を立て、古馬場にある指定の店に向かった。
小さく暗い路地を二度ほど曲がると袋小路になっていて、その一番突き当たりの店
舗の脇に地下へと続く階段があった。店名を表す看板類はないが、封筒に刻印され
ていた何かの紋章と同じものが入口近くのコンクリートを削り取り示されていた。
ここに間違いはないようだが、この地下の部屋でどんな人間が待っていて、何が行
われているか、少しも分からず不安な気分が私を襲った。

やはり帰ろうかとも躊躇したが、謎を抱えたまま悶々とするのは嫌だったので
店内の明かりも音も漏れない重厚な鉄製の扉を開けた。
低いジャズのメロディとキャンドルライトだけの照明に映し出された薄暗い店内が
目に入った。
奥に細長く、右手にカウンター、左にいかがわしいキャバレーのような背もたれの
高いボックス席が設けられている。かなり年期の入った店舗のようだ。突き当たり
には、暗い洞窟に続くような入口がある。

「いらっしゃいませ。
宮武様でございますね。お待ち申しておりました。
今回の全店制覇、偉業達成、誠におめでとうございます。
私どもの会でも、ぜひ祝杯を共にあげたくお誘いして次第でございます」

カウンター越しに初老のダンディなバーテンダーが声をかけてきた。

「おめでとう」
「ブラボー」

カウンター席で肩を並べ呑んでいた二人組の男性客が、続くように短い祝辞を述べ、
小さく手を叩いた。それを機に、ボックス席にいた先客達も口々に喜びの言葉を讃
え、拍手は大きな音へと変わった。
暗くてよくわからないが総勢12名程だろうか、男性ばかりのようだ。

「祝杯の美酒は何を召し上がります。
お好きなものをご指名ください」
「あっ、ありがとうございます。
そうですね・・・・
じゃあ、バーボンをストレートで
お願いします」

シングルグラスを手渡された瞬間、再び大きな歓声が巻き起こった。

「おめでとう」
「コングラッチュレーション!」
「今日から君も我々の仲間いりだ」

なかなか拍手は鳴り止まない。
その音の中から、私を呼ぶ声が聞こえた。

「宮武君、おめでとう。
こちらの席にどうぞ。
みんなへの紹介は後にして
まずは早速じゃが、当会の祝いの儀式でもある
『きき粉』やってみないかね。
小麦粉の特長と違いが非常によく分かるよ。
これからもうどんを食べ歩くうえで
きっと役にたつと思うよ」

カウンターに座っていた一人の男が、名刺を差し出しながら声をかけてきた。
名刺には香川農業大学・粉末食品学科 教授 谷米川穀太郎と書いてあった。

「先生は今、流行のダイエット食品・ゼロカロリーのうどん粉『さぬきの夢201
0NEXT』の開発を始め、来るべき食糧難に備え従来品種と比較して、作付面積10
倍の収穫量が期待できる『さぬきドリームジャンボ2010』の開発にも着手され
ているんですよ。」

隣に座っていた若い男が名刺を差し出しながら言った。
名刺には香川農業大学・粉末食品学科 助教授 長田香と書いている。

どうやらこの二人は小麦粉に関する研究を大学で行っているようだ。
うどんの国・香川らしい学科であり研究だ。

「マスターいつものブランド2種」
「かしこまりました」

マスターは酒のたくさん並んだ棚の隅の方から、標本を入れるガラスの筒を取り出
しカウンターの上に置いた。

「本日の粉はどちらも製粉後3日以内の上物でございます。
右が緑あひる、左が讃岐の夢2000。
緑あひるの方はASWJA直売ルートを通して買い付け、空輸した極上品でございます。
讃岐の夢2000は綾川町の農家、品種改良の父と賞賛される・小懸家花丸様より
直接買い付けた貴重な幻の粉でございます。
どちらも今日の宴のためだけにご用意した逸品でございます。」

そう言ってガラスの筒から、少量の白い粉をパラフィンペーパーの敷かれた小皿に
移し替え、金製の小さなスプーンを添え静かに差し出した。

「まずは、私が手本を見せよう。
こうやって鼻から直接吸い込むと香りの違いが、非常に良くわかるんだよ。
最初は右の鼻腔で緑あひる。
う~~~ん、オーストラリアの熱い太陽の香りがする。
灼熱の大陸風を感じる。
干ばつにあえぐオーストラリアファーマー達の悲しみの歌が聞こえる。
緑あひる特有のストロングなリズムだ。」

教授は天井を仰ぎ、小刻みに瞬きし
そして静かに目を閉じ恍惚の表情を見せた。

「次は左の鼻腔でさぬきの夢2000。
おおおお、我が古郷の大地の香り。
目を閉じると品種改良の壮大なドラマが
走馬灯のようにめくるめくではないか。
マスター、限りなくフレッシュだ。純度の高い代物じゃ。
間違いなく最高級の上物だよ。」

『緑あひる』とは、さぬきうどんでも代表的なオーストラリア産小麦粉のブランド
名、『さぬきの夢2000』とは、一度オーストラリアに渡った小麦の原種を香川
の風土に適するよう品種改良した国内産小麦粉だ。
洋物、和物でそれぞれ異なった性質がある。

「吸い込んだ粉は15分程、
このまま鼻腔の中で放置しておくのだ。
異物を排除しようと鼻水が滲み出てくる。
鼻腔に付着した小麦粉は適度な塩分を含んだ鼻水と混じり合う。
鼻水はうどんを作る時の塩分濃度でいうと・・・
確かな計測をしたことはないが、5~6ボーメ程度だろうか
風邪の時、鼻水を吸って飲み込むと舌の奥で同等の塩っぱさを感じじゃろ。
したがって、塩水と混ぜ合わせ作るうどんと同じ状態になる。
それを鼻くそを取り出す時と同じようにほじくりだし、
指でこねると玉になり、グルテンが形成され粘りと腰の強弱、
艶や光沢の差異が識別できるのじゃ。」

「まさか・・・最後は・・・・」

「そう、食して食感と味の違いを確かめる。完璧じゃろ」

「さぁ。君もやってみたまえ。
実験施設がなくても簡単に小麦粉の特長と品質が確認できるんだぞ。
うどん好きなら、ぜひやるべきだ!」

私は少量の小麦粉をスプーンに取り鼻に当てがい、片方の鼻を塞ぎ勢い良く吸い込
んだ。勢いよく吸い込んだせいで、気管にまで入ってしまったようだ。

「げほげほげほ」

激しく咳き込む私を、小さな子供を見つめるような表情で教授が言った。

「みんな最初はそうさ、
吸い加減が分からず、咳き込んでしまう」

私が激しく咳き込み、涙する中、数人の男達が上着を脱ぎ、上半身裸になって奥の
洞窟のような部屋へ入っていく様子が見えた。









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私の咳は激しさを増しなかなか止まらなかった。気管にべっとりと小麦粉の膜が
へばりついているようで息をするにも苦しいほどだ。見かねた教授は、『きき粉』
を続行することを諦め私に言った。

「宮武君、君をみんなに紹介しよう。
さあ、奥の部屋にどうぞ。
咳はもうすぐ止まるよ。
しかし一度苦しい思いをすると体が粉を受け付けなくなる。
少し時間を置いてやることにしよう」

教授に導かれるまま、奥へと続くドアを開けた。
洞窟を思わせる暗く狭い通路には、部屋の入口毎に赤い非常灯が取り付けられてい
て、救急病棟のような生と死をイメージさせる緊迫感が漂っている。
部屋は全部で四つぐらいだろうか。一番奥は暗くてよく分からない。

数メートル離れた一番手前の木製の簡易ドアからは、隙間から何か煙のような物が
じわじわと溢れ出てきている。二番目の部屋からは何かの重い異音が響いてくる。
何なんだこの施設は。一体何が行われているんだ。怪しい。実に怪しい。今までに
感じたことのない異様な雰囲気だ。まるで何かに地下組織ではないか。まさか薬物
を乱用する非合法な行いをする組織では。犯罪絡みはごめんだからな。その時は、
この場から安全に立ち去る方法を考えなければ。私は鼓動が早くなるのを感じた。
手のひらには滴る程の汗が出ていた。

「まずは、
この会の名誉会長と現役会長を紹介しよう。
君もきっと驚くぞ」

一番目の部屋のドアを開けるとそこには湯気が充満していた。暗い蝋燭の灯りにうっ
すら見える人影。湯気の向こうから重く低い声でささやくように一人が言った。

「ようこそ、我が会に。
宮武君、君は選ばれし人間だ。
この会に選ばれるということは
うどんを愛する者にとっての栄光じゃよ」

通路の冷えた空気で、熱い湯気が一気に冷やされ視界が開けた。
そこには直径2メートルの巨大羽釜が設置されていた。
一瞬、人間が茹でられているのかと目を疑ったが、どうやらそれはジャグジーのよう
だった。釜の中では、細く白い物体が暗闇の中、明かりで照らし出された雪のように
乱舞している。それは底から噴出される泡と一緒にうどんが回っているのだ。まるで
水中の粉雪のように。

「宮武君。
我が郷土の誇り。
郷屋敷源内先生だ」

東さぬき市・引田出身。国会議員を5期連続勤め引退、政財界の影のフィクサーと称さ
れる人物。最近では滅多に人前に顔を出さない超大物だ。
その傍らにいる人物は、香川の流通王と呼ばれる、スーパーマンナカチェーン社長、山
田家将八ではないか。
自らもうどん通を名乗り、香川は元より全国のうどんを食べまくる人物。うどんブロガ
ーにはカリスマ的存在の人物。マンナカグループ傘下にも、顧客自らが、うどん打ちか
ら茹で行程までできる究極のハイパーセルフ体験型飲食施設「ファミリーウドンレスト
ラン・フレンドリーグルテンパーク」や、従業員は全て地元のおばあちゃん達という
「元祖ばあちゃんの手打ち讃岐うどん・引田製麺所」等のうどん店も経営している。

「宮武君。
今回の君の偉業も、郷土の誇りだよ。
うどん界のディズニーランドと絶賛された
アミューズメント型のグルテンパークや
地元のシルバー人材の活用で社会貢献も果たした引田製麺所は
君の発想力豊かなブログ記事を読んで
インスピレーションが沸々と湧いてきたんだよ。
私はうどんを愛する者としてこの会で
君ともその喜びを共に分かち合いたい」

これはうれしい言葉だった。
私は自身のブログの中で、讃岐うどんの現状分析を行い、問題点をピックアップして、
あるべき形態への提言等を数回投稿していた。中でもシルバー人材を活用した讃岐うど
んの原風景的味わいのある製麺所の提案、それが引田製麺所プロジェクト事業に少なか
らず関与できていたことを喜びに感じた。

「こうしていると、茹でられるうどんの気持ちが良く分かる
対流するうどんは、循環する日本経済のようじゃよ。
新しいビジネスモデルのヒントが湧き上がってくるわ~~~~。
がっほほほほほおおおお~~~~~~~。」

郷屋敷が唸る獣のように吠えた。

「本日のうどんは『丸亀・中村』の麺ですね。
体に触れる感触。瞬間で分かるよ。
平滑度抜群。絹のような肌触りじゃ。
この背中を駆け抜ける柔らかな感触。
太ももを撫でる優しすぎるまでの滑らかさ。
まるで天使のため息のようだ。
あああああああ~~~~~~~~~」

山田家が恍惚の表情で言った。

私は予期せぬ大物との出会いに仰天した。社会的地位の高い人間がこの組織の中核にい
る。

「郷屋敷先生、山田家社長、
私はこれから宮武くんを、別の会員に紹介してまいります。
本日は『剛麺・山下』のうどんも取り寄せてあります。
それでは、剛柔二通りの麺感を
たっぷりごゆっくりお楽しみくださいませ」

教授は、王様に仕える執事のように深々と頭を下げた。
私もそれにつられるように深々と頭を下げ、部屋をあとにした。


二番目の部屋を開けると真っ先に目に飛び込んできたのは、金色の大きな金ダライ。特
注製品だろう。これもまた直2メートル近くはある。その中で白くうごめく物体。それ
は小麦粉を全身に纏った粉まみれの男が二人。
昭和の時代にアングラ劇団・山海塾を思わせる。

「全身粉まみれで誰か分からないだろうから
私から紹介しよう。
右側の彼は山越道久くん。
名前を聞いてもう分かっていると思うが、
あの名曲『粉雪』を創出した天才アーティストだよ。
一見、男と女の切ないラブストーリーに聞こえるが、
あれはうどんへの大きな愛を表現した作品なんじゃよ。
左側にいるのが中西玉吉くんだ。
今はまだインディーズでしか名が知れ渡っていないロッカーだが、
甘いルックスを買われ
急遽、アイドル系芸能事務所にスカウトされてね、
来年春にはメジャーデビューが決定している超期待の新星だよ。
オリジナル曲の『可愛く21』は、
讃岐の夢2000の後継品種『香育21号』への
愛情を表現したナンバーなんじゃ。
ダンサブルでグルーヴィーな、いい曲じゃよ」

白い肉塊がうごめき、山越は高いソプラノボイスで歌うように言った。

「こうして水と粉が混ざり合い力を加える事によって
グルテンが形成され、旨いうどんが誕生する。
その誕生の瞬間が今なのだ!
その瞬間を全身で感じる。パワーがみなぎってくるよ。
新しい創造のパワーが溢れだしそうだ」

「二つの異なる物体が融合し新たな世界がうまれる。
粉も水も形を止めない物体なのに
二つが一つになることで有形の美を生み出すんだ。
まるで宇宙誕生の瞬間にも似ている。
メロディが脳内で爆発的に生まれる瞬間にも酷似している
ラ~~~ララ~~~
ラララララ~~~~~~~
来たっ!来たあああ~~~~~~~
新しいメロディが湧き上がってきたああああ」

玉吉は小刻みに奮え、小麦粉を高々と舞い上げ、狂気の乱舞をした。
粉は白い狂神に降り注ぐ雪のように見えた。

「ここでは、うどんが誕生する
『こね』の行程を体感しているんじゃ。
アーティストにとって、
創造の瞬間の息吹というアナロジックな時間を
共有する喜びはかけがえのない
至福の一時なんじゃな。
デザインを職業としている君にも分かるじゃろ。
さあ、次の行程に行ってみようか」


三番目の部屋には香川県出身の元関取。うどんこ丸武蔵がいた。
彼は土俵際でのねばり腰に定評があり、通称『透かし打ち返し』・正式技名『うっちゃ
り』を得意技とした。
香川県出身というだけで、親方から『うどんこ丸』と命名されたが、角界には珍しい愛
嬌のあるしこ名で、お茶の間でも人気の力士となった。
引退後は短期間だったが芸能活動にも励み、その名前を全国にも広めた。
その後は郷土香川に帰り、人気のちゃんこうどん店を経営し成功を収めている。

ここにもいた白い粉にまみれた男達は、製麺作業でいう『踏み』の行程を行っているよ
うだ。体重200キロはあるうかと思われる、うどんこ丸武蔵にじわじわと踏まれ、悶
絶するような、それでいて甘美に溢れた声で言った。

「うううう・・・・
この重圧の果てに・・・
ああああ・・・グルテンが結合強化・・・・されるうううう・・・・
・ ・・そ、創世の息吹・・・・
に、にえ、煮えたぎった熱湯が・・・我を待つ・・・・
神のご加護は・・・・熱湯の苦行の後に・・・・・
ううううう・・・・・」

「うううううう~~~~~
そして・・・・冷水の・・・お清めの後に・・・・
うううううう・・・・・
必ずや・・・饂飩神の降臨が訪れ・・・・
せ・・・世界は・・・うううう・・・・
やがて新しく生まれ変わるううう・・・・・・・
そのためには・・・我が命・・・・」

「手前が上戸栄美くん。
奥にいるのが兵郷榮吉くんだ。
彼らは、空海カルト集団だ。
うどんをこの世に作った空海を狂信している。
この世には空海が創造した饂飩神がいると信じている。
2012年、善通寺本堂より白き饂飩巨神が蘇り、
巨神が四国八十八ヶ所をお遍路した後、
空海が復活し、真麺密教を唱え世界を平和にすると信じておる。
わしはそんな非科学的なことは信じんがね。
彼らは饂飩巨神の復活に自らの命さえ捧げるつもりじゃ。
わしには理解できん」

異常だ。異常すぎる。
たかだ、うどんという食い物だけに、なぜそこまでの精神状態にまで至るのだ。
私にも理解の範疇を超えている。
私は少し気分が悪くなってきた。

谷米川教授が声をかけた。
「カルチャーショックかい?
初めてだからしょうがないな。
しかし、みんなうどんを愛する者の心はひとつ。
君にも分かる日がきっと訪れるよ。
少し休むがいい。
一番奥の静かな部屋で休むといい。
宴はまだ始まったばかりだ」

四番目の部屋の前を通る時、少し開いたドアの隙間から見えた光景に私は愕然とした。
白い粉まみれの男達が巨大な麺棒を使い、製麺作業でいう『伸ばし』の行程を行ってい
た。
時折、苦しそうでいて喜びにも感じられる重いうめき声があがる。その異様な光景は戦
時中の拷問のようでもあり、人間として犯してはならない領域の行為にも映り目を逸ら
さずにはいられなかった。
私の中で、人間という愚かな生き物の大きな尊厳が崩壊しかけていた。

「彼らは香川出身の落語家、
真打亭鶴丸くんと阿讃亭三徳くんだ。
今や押しも押されぬ東西の人気噺家だね。
こんな凄いメンバーが今夜、君のためだけに集結したんだよ。
光栄きわまりないよね。
さぁ、少し体を休ませたら
長い夜を充分楽しもうではないか。
うどんに魅了された者は必ずここに辿り着く。
そして如何様なる時も、必ずここに帰ってくる。
ふふふふふ。
君も同じだ。宮武くん」

教授に案内された最後の部屋には明かりは灯っていなかった。
入口から差し込む微かな光で何かの大きな台と、冷たい金属に反射する鋭く細い光が見
えた。目を凝らし見つめるがそれが何であるかは分からない。
入口近くにあった小さな椅子に腰を下ろす。

なんて集団なんだ。異常だ。これじゃあ変態じゃないか。
SM秘密クラブじゃないか。しかも宗教がかっている。
どうやらこれは、そう簡単には帰してはもらえそうにないな。
ちょっとした好奇心からとった自分の軽卒な判断と行動を悔やんだ。

数分後、暗闇に目が慣れ始めてようやく、うすぼんやりとその物体の輪郭がなぞれるよ
うになった。
静まり返った誰もまだいないその部屋には、手打ちを実演するうどん店でよく見かける
うどんを切るカッター台が置いてあった。
その大きさは幅3メートル、奥行き90センチ。大人の人間が楽々横たわれるサイズだ。

私は嫌な想像をした。
鮮血に染まるかのように眼球に赤いフィルターがかかり、目の前が真っ赤に染まり目眩
がし、軽い吐き気が私を襲った。
そして、私の意思とは逆に体の中で新しい感情が芽生え、眉間によせた苦悩のしわとは
裏腹に、口元に微かな笑みが浮かびあがった。









END




















↓ ザ ヌードルショートショートストーリー プリーズワンポチクリックヒア サンキュー

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Comment

J師匠 ‐♪

「うどん」に魅せられ、食べ続けていると、自分もうどんになっちゃうの?
「うどん」からも愛されるようになるの?

まだ、序の口にも立ってない私ですが、「うどん」には”魔生”ではなく
誰も抗えない”母性”な女性的魅力があると思います~
癒しとかそんなレベルじゃなくて、すべてを生み出して、そして飲み込んでいくような・…圧倒的な安心感?

魅せられたら、もう離れられない~?2010.02.06(Sat) 10:57 | URL | mana

はじめまして いつも楽しく拝見させていただいています。
ここ最近、ジェームス師匠ますます舌好調で
毎回のように爆笑させていただいているのですが
(『池上製麺所初詣』の回 等)
今回のショートショートも 『うどんこ丸武蔵』にKOされてしまいました…

ジャパニーズヌードル ブラボー!
Jショート イズ ファンタスティック~ \(*^▽^*)Ω(←ちく天メガホン)

これからも更新楽しみにしています!2010.02.06(Sat) 13:16 | URL | me
はじめまして<m(__)m>
こんばんわ、はじめまして cobaraと言います。
ブログいつも楽しく拝見しています。
で、今回のミニ小説??かな??
めちゃくちゃ面白いですね(*^_^*)
いつも、記事拝見してますが、ほんと面白いです。
面白さの中に、一瞬の切れ味!!
凄いです。。。。。

これからも楽しいい記事、楽しみしています♪

2010.02.07(Sun) 00:59 | URL | cobara

昨日は途中で寝てしもうた・・
二日にわたって読んだ超大作ですね
麺三郎妄想ワールド炸裂ですな~
一度だけ読んだハードボイルド小説を思い出したよ
2010.02.08(Mon) 00:18 | URL | めいてる

キタ━(゚∀゚)━! じぇ~むす妄想ワールド!
読むのに3日かかったよ(;^ω^)

仕事忙しいんだねぇ~
脳みそ妄想暴走現実逃避なんだね~(TдT)
2010.02.08(Mon) 18:53 | URL | 青いん
芥川賞狙っとるん?
お久しぶりで~す。

世にも奇妙な手紙から始まる、じぇ~むすサスペンス劇場!!!
おもしろ~~~いです!!!

怪しさの中に、所々笑いのツボが!!!
うどんこ丸武蔵、真打亭鶴丸、阿讃亭三徳は笑えた~~~
エンディングが超コワ~~~~~~
夜中にトイレにいけんなって、オシッコちびりそうになった・・・



師匠のミニ小説読んで中学の頃聞いたレコード(古~~)思い出した!!!
三宅裕司のset?スネークマンショーやったかな?


スリル:「キキキーーーー(車のブレーキ音)」

サスペンス:「キャーーーーー(女性の悲鳴)」

そしてアクション:「ハクション!!!・・・・」
みたいな。

これがね~当時めちゃくちゃ面白かったんですよね~
さっき三宅裕司のWiki見たけど「妻は天然ボケ」が笑えましたよ~~


2010.02.08(Mon) 19:39 | URL | 密林のうどん王・たぁさん

ダール?阿刀田?都筑?筒井?

ブラックブラックの世界だね~~♪
次回作、期待してます2010.02.08(Mon) 22:09 | URL | ど

短編小説発行したけん~~言うて さぼったらいかんで。
週末の行き先は ばれてるよ~ はよ 高知ネタ出さんかいっ2010.02.09(Tue) 09:44 | URL | ま○○ん

そ~だ!そ~だ!
  ↑
ん?なんで名前が伏字なんだろ?
2010.02.09(Tue) 23:28 | URL | めいてる

manaさん、おはよ~~~~!!!
大洋のごとき母性的抱擁力のあるうどんに魅せられると
確実に精神も肉体もうどん化してきますね!!!
最近、仕事を始めて30分も経つと
茹で置きうどんのように精神も肉体もダレダレですう。

うどんは、まっこと、太平洋のように大きい存在ぜよ!!!
優しさと柔らかさ、そして太陽のようなあたたかさ
それを食い、飲干した時の安堵感は
格別ながよね~~~~~~~~~~!!!



2010.02.11(Thu) 08:35 | URL | じぇ~~むす2世

meさん、おはよ~~~~!!!
はじ麺まして。
レレレのレ~~~~~!!!
最初、
「ちく天メガホン」が「ちく天バカボン」に見えた~~~~!!!

最近、
うどんに入ってるナルトの渦巻が
バカボンのほっぺに見えてしかたないん。

こんなバカボンなわしやけど
これからもよろしく~~~~~~~。

うどんよっけ、食べよるね~~~~。
リンクさせてね~~~~。





2010.02.11(Thu) 08:44 | URL | じぇ~~むす2世

cobaraさん、おはよ~~~~!!!
はじ麺まして。

お褒めいただきありがとうございます。
めっちゃうどん食ってますね~~~~~。
それにかなりの分析力。
西方うどんのレポが楽しみです!!!
リンクさせてくださいね~~~。

これからもよろしくお願いします。





2010.02.11(Thu) 08:52 | URL | じぇ~~むす2世

めいてるさん、おはよ~~~~!!!
今年のバレンタインは
もう終わってしまいましたっ!!!
次回作は
「ブルーバレンタインデー 青への復讐」という
サスペンスホラーを予定してます。
恐くて眠れんで、一気に読了できますぞ!!!


2010.02.11(Thu) 09:00 | URL | じぇ~~むす2世

青いんさん!!!
バレンタインデーに
わしの一ヵ月はいた
ふんどしを送るけんの~~~~

はあああああ~~~~~~・・・・・

なにもかもが虚無じゃ~~~~~~~・・・・

はあああ~~~~・・・・





2010.02.11(Thu) 09:02 | URL | じぇ~~むす2世

密林のうどん王・たぁさん

はああああ~~~~~~・・・・

芥川も直木賞も
ベストジーニスト賞のいらん・・・・

今はおしっこちびるぐらい
バレンタイン賞が欲しい!!!


はああああ~~~~~~~・・・・・。







2010.02.11(Thu) 09:06 | URL | じぇ~~むす2世

どさん、おはよ~~~~!!!
どさん、筒井の「俗物図鑑」みたく
狂気の世界を描きたかったけど
ブログコードにひっかかりそうで
理性が働いた~~~~!!!

次回は白樺派の潮流、白麺派文体で
うどんSF長編を予定中ですっ!!!


2010.02.11(Thu) 09:10 | URL | じぇ~~むす2世

ま○○んさん、おはよ~~~~!!!
公私ともに多忙で、おまけに風邪まで!!!
しかもバレンタインショック!!!
ダルダルやったん。
高知ネタは忙しかったけん1店舗しかないよ~~~
残念!!!



2010.02.11(Thu) 09:14 | URL | じぇ~~むす2世

めいてるさん、
バレンタインショックから
今、立ち直ったけん
これからアップする~~~~~~~!!!






2010.02.11(Thu) 09:16 | URL | じぇ~~むす2世
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